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仙台高等裁判所 昭和31年(ラ)14号 決定 1957年12月27日

抗告人 森喜一(仮名)

主文

原審判を取消す。

抗告人の名「喜一」を「熙悦」と変更することを許可する。

理由

抗告の趣旨は主文同旨の決定を求めるに在り、抗告の理由は「抗告人が仙台家庭裁判所にその名「喜一」を「熙悦」と変更する事の許可を求め、その理由として「昭和十年頃健康上及交際上思わしくないとの姓名判断をうけて熙悦と称することとなり以来その名を称し、宮城県○○○○協力員となり或は○○商としての免許を受ける等に際してもその名によつて、これを受けて仕事に従事し、表彰等それによつて居り社会一般に「熙悦」として通用し「喜一」は単に戸籍上の名にすぎなくなつている」旨主張したのに対し抗告人の改名は単に迷信に起因するもので改名について正当な事由と為し得ないとして許可しない旨の審判をなした。しかし乍ら抗告人が主張するところを一見して明らかなように姓名判断の結果改名をなしたいと言うのではなく、すでに二十余年、戸籍名と異る「熙悦」なる名をもつて自己の名として使用し、社会生活上、抗告人としては喜一なる名を有せず熙悦なる名のみを有しているので戸籍上の喜一なる名を使用しなければならないとすれば二十数年来熙悦なる名によつて築き上げられて来た抗告人の生活は覆され、対人関係においても、その同一性を疑われ、経済活動上において、又社会生活上に於いて著るしい混乱と損害を蒙るに至ることをあげているに不拘、前記の如く二十余年前抗告人が熙悦なる名を用いるに至つた動機のみを捕え其後の経緯をかえり見ず、迷信に起因するものとして却下しているのは不当も甚だしい。よつて仙台家庭裁判所のなした審判を取消した上で改名を許可せられたく本抗告に及ぶ。というのである。

記録によれば改名の許名を求める理由として抗告人の開陳する事実関係は全部これを認めることが出来る。ただ抗告人が「熙悦」という文字呼称を用いるに至つたそもそもの発端が姓名判断と称する科学的な根拠に基かない云所迷信に在るのだからこれだけの理由でたやすく改名を許容することは勿論出来ないことであるが、何分にも抗告人は既に二〇余年に亘り熙悦として公私の生活を営みその地位を築きあげて今日に至つたもので、本名の喜一では却つて適用しない事情にあるのであるから今更本名を使えというのはいささか酷であり申立の通り改名を許すのもやむを得ないことと考えられる。

よつて抗告をその理由ありとみとめ原審判を取消して申立を許容することとし主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 板垣市太郎 裁判官 上野正秋 裁判官 兼築義春)

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